大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和49年(ネ)2808号 判決

控訴人(被告)

澤畠八郎

ほか一名

被控訴人(原告)

桑野栄治

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人らは各自被控訴人に対し金三四八万円及びこれに対する昭和四六年八月七日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを一〇分し、その二を被控訴人の、その余を控訴人らの各負担とする。

事実

控訴人らは「原判決中控訴人ら敗訴部分を取消す。右部分につき被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述ならびに証拠関係は、次に附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人ら)

一  被控訴人は、本件損害の一部につき次のとおり補償をうけている。

すなわち、本件加害車両には安田火災海上保険株式会社に対する自動車損害賠償責任保険が付せられていたところ、同保険会社は被控訴人に対し、傷害補償として昭和四四年一一月二七日に金四九万五〇〇〇円、後遺症補償として昭和四六年二月一二日金七八万円、以上合計金一二七万五〇〇〇円を支払つている。

二  控訴人会社は、本件事故当時専らチヤーター営業を行つていたので、道口敏夫ら従業員は専らチヤーター車の運転に従事し、その車の運行の指図はすべてチヤーター契約先の顧客会社から受けていたから、控訴人会社の社長であつた控訴人相馬は従業員らに対し翌日の仕事の手配指図をなす余地は全くなく、また当日の仕事の結果報告は、実際には荷送伝票の授受だけのことであつて、これも数日分まとめて事務所兼社長宅に持参交付することで足り、その日のうちに必ず渡さなければならないものではなかつた。したがつて、本件事故当日道口敏夫は業務用の運搬車両を車庫に格納し、これに併設されている独身寮に一たん帰宅した後に、あらためてマイカーを乗り出して本件事故を惹起したのであり、右は外形的にみても控訴人会社の業務執行の範囲に含まれないことが明らかである。

三  証拠として、当審における証人安島功、同相馬多恵子の各証言ならびに控訴人会社代表者尋問の結果を援用する。

(被控訴人)

控訴人ら主張の右第一項の事実を認める。ただし被控訴人が右傷害補償として受領した金員は、自己の治療費にあてたものである。

理由

一  当裁判所は、被控訴人の本訴請求は、控訴人らに対し各自金三四八万円及びこれに対する昭和四六年八月七日から各支払ずみにいたるまで年五分の割合の金員を求める限度で理由があり正当であり、その余は失当であると判断するが、その理由は、次のように附加訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決書七枚目表一〇行目中「七ないし九、」の下に「被控訴人の原審における本人尋問の結果(第二回)により真正に成立したと認められる甲第八号証の一、二、第九号証、」を、同行中「安島功」の下に「(原審及び当審)」を、一一行目中「相馬脩二」の下に「ならびに当審における控訴会社代表者」を、同七枚目裏五行目中「その近く」の下に「の大工町一丁目六番一七号」を各加え、同六行目中「および翌日の仕事」を「等」に改め、同八枚目表二行目、四行目中それぞれ「および連絡」を削り、七行目中「仕事を終え」を「業務用の運搬車を運転して新治、真壁まで行き、同所で荷物をおろして午後六時少し前頃真壁を出発して水戸に向い、夕食をとる前に水戸市見川町所在の」に改め、同行中「前記車庫に」の下に「到り」を各加え、同八行目から末行中の「車庫を出発し、」までの記載を「同所から従業員一同で大工町所在の事務所に赴いて給料の支給を受ける必要があつたところ、見川町から大工町までは五キロメートル程の距離があるので、全員乗用車に乗つてゆくこととなり、先ず最初の車は従業員の安島功が運転して同郡司時雄が同乗し、次の車が本件被告車で道口敏夫が運転し、更に最後尾に当時控訴会社の専務取締役で後に社長に就任した相馬貞夫運転の乗用車が続き、に全員自動車を連ねて給料受領のため出発し、事務所兼」と改め、同八枚目裏初行中「と、」の下に「被告車は事故当日までは前記安島功がこれを所有して平素通勤に使用し、勤務時間内は前記車庫の敷地内に駐車させておくことが許されていたものであること、」を、三行目中「右認定に反する」の下に「当審における証人相馬多恵の証言ならびに」を各加え、七行目中「、勤務時間終了」を「た」に、八行目中「業務の遂行中に惹起したものとして」を「勤務上のことのために個人所有の自動車を利用中に惹起したものであり、かつ当時控訴会社の専務取締役がこれと行を共にして右目的で右自動車が運行されるものであることを知悉承認していたものであるから」に各改める。

(二)  原判決書九枚目表一〇行目中「相馬が」の下に「直接かつ」を、同裏四行目中「第一号証の」の下に「四、」を、五行目中「によれば、」の下に「本件事故現場は幅員七、六メートルの道路上であり、被告車の車幅は一・六九メートルであつたところ、」を各加え、六行目中「運転していたこと、」を「運転して道路の左側端から二メートルくらい右寄りのあたりを走行していたが、対向する被告車がその前方を走つている自動車を追越そうとしながらなかなか追越せずに近付いて来るのを数十メートル前方に発見し、危険防止のため今までの走行位置より五〇センチメートルくらい左に寄つたのであるが、被告車が原告車の車線内に深く入つて来て前記事故を発生させたものであること、事故発生時は未だ完全に日が暮れておらず、ほぼ明るいと表現できる程度の時刻であつたものの、」に改める。

(三)  原判決書一一枚目裏二行目の後に「5、被控訴人が控訴人ら主張にかかる自賠責保険金を受領したことは当事者間に争いがない。そのうち、傷害補償金四九万五〇〇〇円はその性質上被控訴人が主張する如く現実の治療費にあてられるべきものであるうえ、実際上も成立に争いのない甲第一号証の一〇及び被控訴人の原審における尋問の結果(第一回)によれば現実に要した治療費は五〇万円を超え、したがつて右傷害補償金もすべてその費用の一部にあてられたものであることが認められるから、右傷害補償金は本訴請求外の実損害の補填に充当され、本件が前叙の過失相殺を問題とすべき事案であるとしても、その補償金をもつて本訴請求債権に対する弁済とすることはできない。しかし、後遺症補償金は後遺症に基づく逸失利益ないし精神的損害に対する補填の性質を有するから、前示の右両損害金合計三九六万円に対し、後遺症補償金七八万円は、その限度でその損害を補填したものというべく、したがつて控訴人らの債務消滅の抗弁は、この限度で理由があり、右両損害の賠償債権残額は三一八万円である。」を加え、三行目中「四二六万円」を「三四八万円」に改める。

二  すると、被控訴人の本訴請求は右理由のある限度で認容し、これを超える部分を棄却すべきところ、原判決はこれと一部結論を異にするに至つたから、原判決中主文第一項において控訴人らに各支払を命じた金額のうち、各金七八万円及びこれに対する昭和四六年八月七日から各完済まで年五分の割合の金員の支払を命じた部分を取消し、同部分の被控訴人の請求を棄却すべく、本件控訴はこの範囲で理由があるが、その余の控訴は理由がないからこれを棄却するものとし、右の趣旨で原判決を変更し、訴訟費用は民訴法九六条、九二条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 管野啓蔵 舘忠彦 安井章)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例